クリストファー・ノーラン監督の最新作品。
ノーラン監督の作品は、「ダークナイト」や「メメント」など素晴らしい作品が多い。だからこそ期待値も高い。
主演はレオナルド・ディカプリオ。
最近観た「シャッター・アイランド」がヒドイ駄作だったので、レオ様が主演ってのは個人的にはイメージが良くないが、レオ様は良い役者ではある。「ブラッド・ダイヤモンド」は名作だったし。なので、脚本がしっかりしてればしっかりと役をこなしてくれるはず。
と、色々と期待をして観に行ったのだが、今回は大当たり!!!
すごく面白い映画だった。
ストーリーは、ターゲットの「夢」から情報を引き出す(エクストラクトする)産業スパイの仕事をしているレオ様扮する「コブ」が、一度情報を引き出すのに失敗してしまった渡辺健扮する「サイトー」に、逆に仕事の依頼を請ける。仕事内容は、市場をほぼ独占しているある敵対企業の社長が死の間際にいるため、その社長の息子に対して「会社を解体させる考えを埋め込む」ということ。
その行為がタイトルの「インセプション」。
正直、この辺りの細かい環境設定は作品評価にとってはどうでもいい。結局「サイトー」の会社名も明かされないわけだし。
条件付けのための設定でしかない。
ストーリーよりも、世界観の構造が複雑。
まず「夢」の世界だが一層ではない。合計5層まで出てくる(ちなみに第3層までは設計された世界)。
ネタばれにはなるが、それぞれの層を書き出してみる。
- 現実世界 飛行機の中
- 第1層 白いバンでのカーチェイス(ユスフの夢)
- 第2層 ホテル(アーサーの夢)
- 第3層 雪山(イームスの夢:推測)
- 第4層 モンのいる世界/年老いたサイトーのいる世界(?)
- 第5層 虚無(実は・・?)
そして、夢の層は深くなるほどに時間軸が長くなっていく。
第1層の数分が、第4層では数十年になる。
「夢」の世界では「キック」と呼ばれる刺激を受けることで、上層へ戻ることができる。また、「死ぬ」ことでも上層へ戻ることができる。ただし、「死」による上層復帰は、第1層のみ。第2層より下層だと、「死ぬ」ことで「虚無」へ落ちてしまう。
そして、第5層(最下層)は「虚無」と呼ばれる世界。
構造化されていない「夢」の世界に、意識のみが捕らわれてしまい、2度と現実世界に戻ることができない。
この設定自体、すごくよく出来てる。ほんとに面白い。
こういう世界観の構成は、日本人は不得意。素晴らしいと思える構造化された世界観は、日本映画ではめったに観られない(アニメ監督の押井守さんは、構造化された作品を作れる数少ない日本人監督の1人)。よって、見る側も不得意。おそらくこの「世界観の理解」が、この作品の評価の分かれ目になるように思える。
さて、「コブ」の奥さんの「モン」は、夢の世界に捕らわれてしまい、「夢:バーチャル」と「現実:リアル」が反転してしまった結果、上層世界へ戻ろうとして、現実世界で自殺してしまう。それが「コブ」の深層意識に深く刻まれてしまい、以来「コブ」の「夢」には「モン」が現れて色んな邪魔をしてしまう。
「コブ」は元々「夢」の世界を設計する「設計士」なんだが、「モン」が邪魔をしてしまうため、新たな「設計士」を雇い、「サイトー」の依頼を果たすためにチームを組む。これがまた、「ミッション・インポッシブル」みたいで面白い(笑)。「設計士:アリアドネ」「偽装士:イームス」「調合士:ユスフ」。この辺り、各キャラの役割は実際に映画観てみてくださいな。
途中は省くが、結果的に「コブ」は「サイトー」の依頼を果たす(果たしたように見える)。
「コブ」の最終目的だった、子ども達との再会も果たす。
で、ラストシーン。
これがまた物議を醸す終わり方をしてる。
現実世界に戻った際に、そこが「夢」ではないことを確認するために、「トーテム」と呼ばれる小道具を使って確認をする設定になっている。「トーテム」は各々が異なる。「コブ」の「トーテム」は小さなコマ。このコマが「夢」の世界では止まらず回り続けるが、「現実」では当然止まる。
で、最後のシーン。
この「トーテム」が回り続けて止まりそうな瞬間で終わる。つまり、そこが「現実」か「夢」かわからないように暗示して終わるのだ。
「コブ」は最終的に「虚無」に落ちてしまい、子ども達との再会を果たしたという「夢」を見てるだけじゃないのか?
これは意見が分かれるところだが、私は最後のシーンは「夢」だと思う。
というのも、いくつか腑に落ちない点があるため。
まず、「夢」の第1層に落ちた際に、列車が出てきたり、敵に襲われたりする(第2層以降の「敵」は、息子が情報を守るための防御意識として説明できるかな?)。第1層では敵に襲われるはずが無いのだが、これは「コブ」の深層意識が「現実に戻りたくない」からこそ、現れた「敵」のように思えた。これが1つの複線。
そして、一番腑に落ちないのが、「キック」。
アリアドネはコブと一緒に第4層まで落ちるわけだが、最後ビルから飛び降りて「キック」され第3層に戻る。そして、さらに雪山の基地が崩れてさらに「キック」され第2層に戻り、ホテルのエレベーターから「落ちる」ことで「キック」され第1層に戻る。
で、一番わからないのがココ。
「なぜ第1層で目覚めたか?」ということ。
第1層でも「キック」するために白いバンを川へ落とす仕掛けをしていたはず。そして、見事バンは川に落ちた。つまり、その段階で、第1層からも「キック」され、「現実世界」に戻らないとおかしいんじゃないのか??
アーサーも含めて何故か第1層で目覚めてしまう。そもそも最初から第1層で目覚めるつもりなら、バンを川を落とす必要はなかった。
これも「複線」になってるんじゃないかなーと思う。
そのまま「現実世界」に戻ってしまっては、最後のシーンが「現実」か「夢」かはっきりしてしまう。アリアドネ達は「コブ」と「サイトー」が目覚めたかどうかがわかるので。だからこそ、筋は通らないが、強引に第1層で目覚めさせた。
ということは、最後のシーンは「夢」なんだろう。
この辺り、ちょっと展開が強引過ぎて、最後脚本を少し変えたようにも思える。あまりに切ない終わり方になってしまうという理由で。。。
この作品は、何よりも、普遍的な命題「現実よりもリアルな「夢」であれば、それはすでに現実ではないか?」という問いを示してくれる。これがこの作品の主題(テーマ)なんだろう。作中でも、「コブ」が「モン」に「インセプション」して悲劇につながってしまった考えだが、これは結論の出ない問いだな。。。
とにかくこの作品は世界観が楽しめました!
ただ、ある程度の予備知識が無いと1回だけだと難解かもしれない。2回観て楽しめる映画。
まだ観てない人は、多少ネタばれになるが、ここに書いた「階層」については理解して観た方がより楽しめると思います。