「DOPESICK 」。
アメリカで現在大問題になっている「オピオイド問題」を扱った、ドキュメンタリーと言える取材記録の本。
なお、「アヘン」を英語で「opium(オピウム)」と言うが、オピオイドとは「合成アヘン 」のこと。
日本に住んでいるとほぼ情報を得ることはないが、アメリカで2020年現在いまだ解決する目処が立たず、拡大中の問題である。
一言で言うと、「麻薬問題」。
しかし、罹患者が自ら快楽のために麻薬を選んだというよりも、パデュー・ファーマという製薬会社が意図的に市場を拡大した「オキシコンチン」という鎮痛剤に依存性があり、その依存性が元で「オキシコンチン → ヘロイン → フェンタニル → メタンフェタミン(メス)」とさらに強い依存性を求めて麻薬中毒になっていく。
病院から処方された鎮痛剤であるオキシコンチンが元で、中毒者に落ちていくのである。こんな酷い話はない。
私は日常生活で病院に行くことはないが、仮に病院に行って医者に「この薬を使って」と処方されれば普通に使ってしまうだろう。
これが依存性のある麻薬だったら、防ぎようがない。
利益目当てで麻薬を広げたパデュー社は当然として、依存性があると知りながら処方しまくった医師、中毒になった際に世間体から適切な対策が取れなかった家族や地方自治体、問題を認識できず対策が取れなかった連邦政府、すべての状況が酷い。
もちろん、医学的な知識がない一般人に関しては致し方ないとは思うけど。。
しかも、これは最近の話ではなく、20年以上前の1990年後半からすでに顕在化していた。なのに、いまだに対策ができていないことに驚く。すでに年間死者数が50,000人を超えているというのに・・・。日本の年間自殺者数が20,000人(2019年時点)なので、アメリカの人工が3億2000万人と日本の2.5倍であることを考慮しても恐ろしい数値だ。しかも、10代20代の若者が多く亡くなっていることがさらに痛ましい。
この問題は、炭鉱労働者が多かったアメリカの所謂「ラストベルト(rust belt)」から広がっている。本もアパラチア山脈の麓にあるバージニア州のロアノークという街が舞台。炭鉱労働者は長年の仕事で腰や膝などを痛めてしまう。その処方薬として鎮痛剤が投与される。そして、麻薬中毒者に落ちていく。
つまり、この問題は都市部より地方で広がっているのだ。
(ちなみに、このラストベルト地帯はトランプ大統領の支持基盤でもある。)
アメリカは精神科医が社会の一部になっており、何かあればすぐ通院して薬を処方してもらう、という流れがルーティン化している。薬を使うことが当たり前になりすぎている。東洋医学とはかなり異なる思想だ。この文化的な基盤が、この問題をここまで大きくしてしまった1要因ではあると思う。
この本でも何度も言及しているが、やはり麻薬中毒者を「厳罰を持って処する」という対処法が間違っていると私は思う。
麻薬は脳に作用するので、個人の意志ではどうしようもないところがある。
つまり、「犯罪者」ではなく「患者」であり、行くべきところは「刑務所」ではなく「病院」だろう。
次の大統領選挙でもトランプ大統領が再選しそうなアメリカにあまり改善は期待できそうもないが、それでも、アメリカの一般の人がもっと「普通の生活」ができるようになることを願って止まない。
日本の状況
日本でも、つい最近槇原敬之さんが逮捕された。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200213/k10012283991000.html
この事件を最初聞いたときは、現行犯逮捕されたのか・・槇原さんの曲は今も大好きなので残念だな。。と思っていたが、どうやら現行犯逮捕ではなく2年前に麻薬を所持していた、という訳のわからない逮捕だったみたいだ。
この事件に関しては不明な点が多々ある。
正直自分は警察や検察をあまり信用していない。
いまだに取り調べ可視化に反対したり、利権から同じく依存者を生み出すギャンブル(パチンコ)業界を支持してる組織なので。
こういう二枚舌の組織は、信用するに値しない。
とは言え、この事件での重要な視点は「日本社会における麻薬中毒者」の扱い方だ。
日本はアメリカとは異なり麻薬利用に関しては厳しい。
幸い、社会のそこかしこで一般人が普通に麻薬を使っているという事態には陥っていない。それは良い。
しかし、アメリカ同様、麻薬中毒者は「犯罪者」として扱えば良い、としか考えていない。
メディアもそうだし、おそらく一般人の認識も同じだろう。
いまだに「ダメ、ゼッタイ」とかの標語が流布してる。麻薬=悪という短絡的な思考でしかない。今回の槇原さんや、ちょっと前の電気グルーヴのピエール瀧さんの扱い方を見てもはっきりしている。
日本がアメリカと同じ状況になるとはさすがに思わないが、仮になってしまった場合、宗教基盤(社会インフラ)がない日本では、おそらくもっと酷い状態になってしまうだろうことは、現在新型コロナでデマ情報に右往左往してマスクやティッシュを買い占めている騙されやすい一般人を観ると確信めいた気持ちになるし、また暗澹たる気分にもなってくる。アメリカには、まだ無償で中毒者を助けようという共同体がギリギリ残っている。
日本人には、自分や知り合いが麻薬の中毒者になってしまったら・・という想像力が1ミリもない。
自分だけは大丈夫、と思っている。他人のことは知らない。
麻薬や新型コロナの問題だけでなく、自分が警察に捕まったら・・という想像力もないので、取り締まり可視化や司法の問題にも興味がない。
「日本人は優しい」という話をよく聞くが、単に「他人に興味がない」だけだ。
会社の利益から麻薬をバラまいたパデュー社含め、どの国でも「自分の損得以外のことは考えない」人が増えているのだろう。
最後に
私はこの本の訳者である神保哲夫さんが運営しているビデオニュースドットコム(マル激)を毎週観ているので、この問題を知ることができた。
神保さんは、クズばかりの日本のメディア環境の中で唯一と言って良い信頼できるジャーナリストだ。
まさに真実を追求する「ジャーナリスト」である(日本の大手メディアはただの会社員)。
この人が扱っているからこそ、この問題に興味を持った。
今回のコロナショックで本当に痛感しているが、様々な社会インフラ(セーフティーネット)の存在しない日本は、いざというときに本当に脆いんだな、と感じる。マル激で社会学者の宮台さんが「感情の劣化」といつも言っているが、今回のコロナ騒動に関する一連の顛末はそのことをこれでもかというくらい可視化している。
まさに「病理」である。
政治を見ても、「桜を見る会」や検察総長の定年延長、今回のコロナの対応など、もはや酷すぎてどこを突っ込めが良いのがわからない。安倍首相がバカなのは前々からわかっていたことだが、そのバカな人を選んだのは結局日本人である。いい加減この人が自分以外何も「保守」していないことくらい気付けよ。
いよいよ社会の「底」が抜けてきた。
私は宮台さんの影響もあって、行くところまで行って早く破綻すれば良い、という「加速主義」の立場をとるようになった。
これは、政治という大文字の話だけから導き出した結論ではなく、普段仕事を通して他社(大会社)の年上や権限ある経営者に接したり、日々の生活を通して自分が当たり前と思ってる責任感や礼儀が全くなっていない大人(アダルトチルドレン)を見続けて至った結論だ。
もはや大枠での処方箋などない。
とっととクラッシュした方が良い。
絶望から出発すれば、意外と未来は明るく見えるものである。