三菱UFJ証券参与・チーフエコノミストである水野和夫さんの著作。
非常に示唆に富む内容です。
経済的な指標など、経済学で使う計算式や数値など、正直半分くらいはわからない内容もありましたが、全体の流れは把握できるので、著者が何を伝えたいかは理解できます。数字については、また読み直す機会あるときに、もっと理解できるようにしようと思ってます。。
さて、その内容ですが、著者はグローバル経済の本質を考える上で、以下3つのキーワードをあげます。
「帝国化」と「金融化」と「二極化」。
「帝国化」とは、16世紀から始まった「国民国家」の時代は終わりをつげ、本の中では「新中世主義」と呼んでいましたが、15世紀以前の「帝国」の時代へ逆戻りする、そういう意味です。
国民主権の国ではなく、「君主」が国を支配する。 「君主」に当たるのが世界でビジネスを繰り広げる「グローバル企業」。 そして、そのグローバル企業は、9.11事件以降帝国化の道を驀進するアメリカや、中国、ロシアなど、「帝国」化した国家を相手にビジネスを行うようになる、と著者は示唆します。
また、「金融化」とは、雇用や生産活動などの「実物(実体)経済」ではなく、株や債券などの金融証券(資産)がメインとなる「金融経済」が、今後は重要視されるようになる。グローバル企業は自社の株価をより意識する必要があり、稼ぎだした資本の分配を、雇用報酬(賃金)に回すのではなく、資産価値上昇(株価UP)に回し、結果として自社株の価値を高め、「帝国」からさらに資本を集めて、その資本を元手に新たなビジネスを行う。。
そういう流れにならざるを得ないと著者は指摘します。
次に、「二極化」ですが、様々な対立軸の二極化があるのですが、まずは「グローバル企業」と「ドメスティック(国内)企業」。
ドメスティック企業とは、内需、つまり日本国内での消費を前提とした企業で、世界(帝国)での消費を前提としたグローバル企業は、今後さらに成長率を伸ばしていけるが、ドメスティック企業は成長を望めない。 成長できない以上、下降するわけにはいかないので、現状維持つまり「定常化」する必要がある。
戦後の「インフレ(成長)がすべての怪我を直す」という幻想は、バブルが終わった95年頃に脆くも崩れ、グローバル企業には通用しても、日本の8割を占めるドメスティック企業には全く通用しなくなった。企業を「成長」させるのと、「定常」させるのでは、全く方法論(モデル)が異なる。グローバル企業もドメスティック企業も同じモデルで成長出来た過去の栄光を引きずっている余裕は今の日本(のドメスティック企業)には全く無い。
また、「金融化」した結果の必然として、資本を賃金へ配分する比率は少なくなってしまうため、「富める者」と「富まざる者」の二極化、つまり「格差」はさらに拡大していく。
その他に「製造業」と「非製造業」、「資本」と「労働」、「大都市」と「地方」、「先進国」と「途上国(ブラジル/ロシア/インド/中国の所謂”BRICs”)」、「ストック」と「フロー」、「インフレ」と「デフレ」、「低金利」と「高金利」など、気になる対立軸がありますが、これは実際に本を読んでみることをお勧めします。
僕も全て理解しているわけではありませんので(笑)
いずれにせよ、今までのような「一億総中流化」の時代は終わった。 それが一番大きなメッセージと受け取りました。 つまり、今までとはモデルが全然違う、「意識改革をせよ!!」と。
各企業や各都市に対しても、一面的ではなくその特性に合わせたより多面的な政策を行う必要があるし、より多面的な社会になる必要がある。
そして、より良い政策で再分配を上手く行うことで格差を出来るだけ無くし、現在を楽しめば良いという刹那的な社会ではなく、未来を志向する社会を作る必要がある。
最後にドン・キホーテの逸話で本を結んでいますが、ドン・キホーテが言った、「事実は真実の敵である」という言葉が印象的です。
事実(過去の栄光)は真実(未来)には害である。
日本の状況を皆が真剣に考えるためにも、一人でも多くの方に(特に公務員の方に)、この本を読んでみることをお勧めします。