ロバート・B・ライシュ氏の著書。
原題は「Supercapitalizm」。本文では「超資本主義」とそのまま訳されている。
今までの「民主的資本主義」が「超資本主義」へ変わってしまったことで、市民としての公正さを実現するための「民主主義」という機能が働くなってしまった、それを「資本主義の暴走」と呼び、その危険性を警告している。
氏は現在バラク・オバマ民主党大統領候補の政策アドバイザーを務めている。
あと1ヶ月ほどでアメリカ大統領選挙が始まるが、オバマ氏有利の下馬評でもあり、仮にオバマ市が黒人初の大統領になり、氏が政策アドバイザーになれば、氏の考えが及ぼす影響力もその分拡張されることになる。次のアメリカ政府がどんな政策を実施するのか、予想する上でも本書を読む価値はある。
さて、目次は以下の通りだ。
序 パラドックス
第1章 「黄金時代」のようなもの
第2章 超資本主義への道
第3章 我々の中にある二面性
第4章 飲み込まれる資本主義
第5章 民主主義とCSR
第6章 超資本主義への処方箋
この本で秀逸だなーと思ったのが、個人を以下4つに分けたフレームだ。
・投資家
・消費者
・労働者(経営者)
・市民
我々は当然消費者であるし、直接株や債券を買っていなくても、保険の契約をしたり、銀行にお金を預けていれば間接的に投資行動に参加していることになる。また労働者(経営者)でもあるし、市民(国民)でもある。
この中で、「投資家と消費者」及び「労働者と市民」は、我々が持っている二面性、対立概念として書かれている。
アメリカでは1960年代頃までは、市民や労働者の権利を保護した「民主的資本主義」だったらしい。経済も継続的に成長していたし、年功序列で給与も年々UPしており、人生計画も立てやすかった。日本同様、いや日本より前に中流化が進み、一般家庭の生活水準は高くなり生活は豊かになっていった。その逆効果として、投資家や消費者にとっては、良いリターンが得られる投資先も少なく、大企業が各業界を寡占していたため、商品価格も固定化してしまい、消費者としての選択肢も少なかった。
70年代から、徐々に規制緩和が進み、様々な新企業が新しいサービスを始め、商品の価格も下がり、消費者としての選択は広がった。株式市場も新企業の登場で賑わい出し、新しい金融商品も数多く開発され、金融市場は盛況となった。しかし、その逆効果として、企業が賃金の安い途上国に工場を移し、グローバリゼーションが浸透していくと、企業の利益と国益が合致しなくなり、国内労働者の賃金は低下。政府も企業のロビー活動の結果、さながら企業の下請け団体のようになりさがり、市民の声がほとんど届かなくなってしまった。
そのことを、氏は「超資本主義」と呼んでいる。
処方箋の目標としては、個人の4つのフレーム自体は今後も変わらないので、いかにうまくそのバランスを取るか?ということになる。当面は、市民の声をより政治に反映させる仕組み作りということか。。具体的には、法人税を無くして株主配当から税を徴収するとか、いくつか提案が挙げられているが、これはあくまでアメリカでの処方箋。日本人は日本での処方箋を考える必要がある。
しかし、何より、この「資本主義が暴走している」という事実を知ることが重要。
企業にCSRなど社会的責任を押し付けるのは無意味という話はすごく共感。理念としては理解できるが、本来は利益追求集団である企業に、そのような理想を 押し付けても上手く機能するはずがない。政治で解決する問題だし、単に政治が解決できない(しない)ことをごまかしてるようにさえ思えるので。
非正規雇用の増加や、格差の拡大など、様々な社会問題が日本でも顕在化しているが、その現象や理由を見事に1冊の本にまとめあげていると思う。大変わかりやすかった。
今の日本社会に違和感を感じている人であれば、その現象を正確に理解する手助けに確実になると思う。
※余談ですが、この本はあるネットニュースを見ていて紹介されていたため購入したのですが、帯には勝間和代さんの推薦文が(笑)この方ほんとすごいなぁ。。自分の読書生活の色んな場所で絡んでくる方です。ということで、勝間ファンの方もぜひ読んでみてください。