石井淳蔵氏の著書。
氏の本は以前「マーケティングの神話」という本を購入し、こっちの本はまだ読みきってはいないのだが、途中まで読んでみて、この人は日本のマーケティングの第一人者という印象を受けた。
で、マーケティングに関わってる自分としては、そんな著者の新刊だったので、内容は確認せずとりあえず購入。読んでみて、かなりタメになる良著だった。
そもそも本のタイトルでもある「ビジネス・インサイト」とは何か?
著者は、インサイト=「創造的瞬間」と定義する。つまり、「閃いた瞬間」だ。
(茂木健一郎氏の「アハ体験」に似てるな(笑))
なので、「ビジネス・インサイト」とは、「ビジネスモデル」を「閃いた瞬間」ってことになる。
この「閃く」という創造的な行為が経営者には何より大事と氏は説く。
まずは目次を見てもらいたい。
序章 経営者は跳ばなければならない
第1章 実証主義の経営を検証する
第2章 ビジネス・インサイトとは何か
第3章 知の隠れた力tacit knowing
第4章 ビジネス・インサイトをケースで学ぶ
第5章 ケース・リサーチの可能性
第6章 経営における偶有性
第1章で、実証主義経営の問題点を論じる。これがすごくタメになる。
従来のマーケティング手法は基本的に実証主義だ。自然科学の手法を取り入れている。自然科学は、物理法則などのように原則「真理は1つ」。10年前100年前や、また200年後の世界でも基本的には同じ法則が成り立つものだ。しかし、社会科学の場合、前提となる「環境要因」が時間により全く異なってくる。昨日と今日は天気やイベント、人々の気持ちも全て変わる。全く別モノ。しかし、それを無視して、先週/先月/昨年との数字を比較する。
マーケティングのSTP&4Pなどの手法も同じだ。STP手法では、「新しい市場を創造するビジネス・チャンスを見逃すことがあり得る」「自身の商品の市場を狭く定義してしまう」、と氏は言う。ただし、従来の手法が無意味と言ってるわけじゃない。実証主義的なアプローチも必要。何でも感覚的に判断しろと言ってるわけではない。そもそも、数字が無いと会社という組織は何も判断ができない。
その数字を「信じながら疑う」という、複雑な姿勢を欠かしてはいけないということだ。
また、第3章では、「対象に棲み込む(内在化する)」ことの重要性を説く。
これは私の言葉で言えば「深くコミットする」ことと同義だ。
具体的な方法としては以下の3つ。
- 人に棲み込む
- 知識に棲み込む
- 事物に棲み込む
「人」への棲み込みは、徹底的にその人に立場に立って考えるということ。「知識」への棲み込みは、その知識をまず使ってみて体に慣れさせ、自分の血肉として吸収するということ。「事物」への棲み込みは、その事物の標準的な使い方以外に、様々な使い方をも模索するということ。
また、面白いのが神の視座に立つ(「認識優位」の立場をとる)実証主義では、対象に棲み込むことは「禁じ手」であるということ。しかし、文化人類学などでは、どこかの部族を研究するのであれば、まずその部族の中に入り一緒に生活するという手法を取るという。
やはり、自然科学と社会科学では、アプローチが正反対ってことなのだろう。
どちらかがより大事ということではなく、両方大事というのが、この本を通して氏が語ってるメッセージだ。
その後の章では、この「インサイト」をいかに学ぶか、ケース・スタディ手法などの可能性を論じている。
最後に、IT技術が普及した現代で、今後のマーケティングの鍵となる概念を。。。
まずは「デコンストラクション」。
従来の事業定義が破綻し再編成されるという意味。
その理論的意義は以下3つ。
- 事業を構成する要素はすべてが変数
- 戦略が現実を創り出す
- アイデンティティは目的のみ
3番が重要。企業という存在が、全てがデコンストラクトされる可能性を考えると、企業のアイデンティティとして残るのは「目的をもったコミュニティ」だけとのこと。面白い。。。
「顧客との共同制作物を作る」という感覚が大事だ、という言葉で著者はこの本の最後を締める。
これが一番大事かな。。今の時代、消費者の需要が先にありきで、その欲望を喚起させるようなマーケティング手法は、日本のような先進国ではあり得ない。既に需要を喚起するほどの物欲は、人々には無いのだろうし。。この世界にモノは溢れすぎてる。
だからこそ、「共同への意思」が鍵となる。
いつか、ユーザと共に愛で、育てていけるようなサービスを作り出したいな、と読み終わった後に感じた。