使える!経済学の考え方

小島寛之氏の著書。

氏は経済学者。経済学者として、「経済学とはどんな学問か?」という、かなり根本の問いについて、考えている本のように思えた。

ちなみに、読み終わった後、今まで私がイメージしていた「経済学」の考えが少しだけ変わった。

「経済学」とは、数字を色々といじって予測できない将来をもっともらしく説明する学問、という思いっきりマイナスのイメージしか持ってなかったのだ。

多少はそのマイナスイメージは無くなった。
しかし、トータルでは「経済学」はまだまだマイナス。
というより、全然違う面から眺める視点を得た結果、トータルゼロになってしまった。

プラスに転換出来る(活用できる)ような要素は「経済学」という学問には無い、というのが本書を読んだ上での私の結論だ。

本書は、「よい社会とはどういう社会なのか?」を論じながら経済学について語る構成になっている。このテーマは本来「社会学」で扱うものだとは思うのだが、このテーマを「数字を使って議論」している。目次を見てもらうとわかる通り、「幸福」「公平」「自由」「平等」「正義」「市場社会の安定」という概念を、数字を使ってモデル化している。

これがイコール「経済学」ってことなのだろうか?

氏の態度は真摯で信頼が置けるのだが、仮にこれが「経済学」なのであれば、そもそも「経済学」だけ学んでも全く意味が無くて、「社会学」とセットで学ぶ必要があるのではないだろうか??(というか、「社会学」だけ学べばいいんじゃないの?)

本書でも著者が「経済学という箱庭」という表現をされてるが、明らかに「社会」よりも「経済」の方が領域が狭い。「社会」の中のごく一部を切り取ったのが「経済」。それが私の認識。「箱庭」という表現を見ると、著者も同じ考えなのだろう。

「数字を使って議論する」という箱庭ゲームのルールはわかる。数字で具象化すると話がわかりやすくなるし。しかし、ゲーテルの「不完全性定理」でも「数字(数学)」自体の証明不可能性や不完全性も既に証明されているし、その不完全な「数字」使って人間の概念を切り取るというアプローチ自体、かなり無理があるんじゃないだろうか??

著者の経済学者という立場上、「経済学」自体の否定は出来ない。自己否定にも繋がるし。「経済学」という島宇宙に住んでいると見えてこないのかもしれない。

しかし、「経済学」に何の思い入れも無い私としては、読み終わった直後の感想は、「経済学って何のためにあるの??別に必要ないじゃん」という身もフタも無い結論だった。

「経済学」は、数字を使って「過去の説明」は出来るが、将来を予測する「分析」が出来るツールではない。「歴史」を語る上では良いのかもしれないけど、将来に生かすためには使えない。

それが本書を読んだ私の結論だ。

そういう視点、「経済学の限界」を知ることができただけでも、本書を読んだ甲斐はあったように思う。

以下は目次。

まえがき――よい社会ってどんな社会

序 章 幸福や平等や自由をどう考えたらいいか
人々の幸せを論じる難しさ/ミルの考え/「自由」と「分配」の衝突/「競争」の本当の意義/本書は、幸福の問題を、数学を使って考える/ブラウン神父から学ぶこと/数学の有効性を知る一例

第1章 幸福をどう考えるか――ピグーの理論
「幸福」を経済学ではどう考えるか/「幸福」は「効用」で測る/効用関数はこのように発見された/大事なのは、「最後の1単位」が与える効用/ピグーの厚生経済学/「最良の社会」は「完全平等の社会」である――ベンサム&ピグーの定理/ベンサム&ピグーの定理をどう評価するか/ピグーの論理の弱点/功利主義とはどんな主義か

第2章 公平をどう考えるか――ハルサーニの定理
人が完全に公平であるのはいつの時点か/ハルサーニの人となり/賭けについての数学者の基準/賭けについて、経済学者が導入した期待効用基準/期待効用はアンケートでわかる/期待効用基準を生み出す規則とは?/ハルサーニの発想/ベンサム&ピグーの定理が再現される/人間の幸せについての幾何学/ダイアモンドの強烈な批判/自由意志の行使の問題

第3章 自由をどう考えるか――センの理論
自由という魔物/民主主義と自由は両立しない/社会の選択基準を与える関数/パレート原理とリベラリズム原理/センの鮮やかな証明/原体験としてのベンガル飢饉/どんな選択肢から選ばれたのか/学校教育は義務か権利か/選択肢の広さこそが「自由」/障害者について深く考える/潜在能力アプローチ/潜在能力の国際比較

第4章 平等をどう考えるか――ギルボアの理論
平等と格差/平等度の計測/ジニ係数で世界と日本の不平等を見てみる/ジニ係数のいろいろな計算方法/ジニ係数で数学の威力を見る/ジニ係数の意味での平等社会を選好するとは?/公理をチェックしてみる/やはり、背後には不確実性についての認識/「自信のなさ」が関わる確率理論/別の期待値を定義する/ショケ期待値の公理系/ジニ係数とショケ期待値には深いつながりがある

第5章 正義をどう考えるか――ロールズの理論
公正な社会とは何だろう/正義の二原理/功利主義はどこがダメか/最も不遇な人たちとは誰か/原初状態と無知のヴェール/基本財を使ってマックスミン原理を論証する/センによるマックスミン原理への批判/マックスミン原理の公理化の問題/「自信のなさ」の不確実性理論を再び/公平無私の観察者によるマックスミン原理/マックスミン基準と不透明な未来

第6章 市場社会の安定をどう考えるか――ケインズの貨幣理論
資本主義の落とし穴/「欲望」と「安定」のトレードオフ/ケインズの豊かなアイデア/ケインズ理論における「不確実性」/再び、加法性を要請しない確率/貨幣こそが不況の原因/貨幣が購買力を吸収し尽くす/月への欲望/流動性選好が不況の元凶/「二股をかけていたい」という欲望/「曖昧な消費欲」を公理でとらえられる/不況とは協力が壊れてしまった状態/経済学の新たな地平へ

終 章 何が、幸福や平等や自由を阻むのか――社会統合と階級の固着性
幸福や平等や自由の実現を阻むもの/学校教育と平等/教育を投資と見る人的資本理論/階級は教育によって固着化される/対応原理とヒエラルキー分業/数学モデルの重要性を再論する/アカロフの「情報の非対称性理論」/忠誠心フィルター/貧乏人はなぜ金持ちに忠誠心を持つのか/階級に対する「経験」の影響

あとがき
参考文献

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