中野京子さんの著書。
この人の本は、以前「ハプスブルグ家12の物語」を読み書評も書いた。名画を通して、ヨーロッパの歴史を学ぶ上ではずせないファクターである「ハプスブルグ家」を知る、という目的で本を読み、見事目的を達成できた。この人の文章は大変読みやすい。
今回の本も基本的な構成は同じ。
名画の裏にある背景(コンテキスト)を知ることで、見た目は華やかな絵が、実は相当ドロドロとした、まさに「怖い」絵であることを解説している。
まずはドガの「エトワール、または舞台の踊り子」。
この絵は大変有名な絵。しかし、解説を読むと華やかなバレエの世界のプリマドンナ、という現代の価値観とは到底違う世界を描いた絵ということがわかる。
当時の「バレエ」は、今で言う「風俗」業界と同じだったらしい。これが何より目から鱗。つまり、今の価値観で言うと、バレエダンサーは風俗嬢、あるいは裸で踊るダンサーに近い。一応言っておくが、私は別に風俗業界の方に偏見は持ってはいない。事実を言ってるだけ。ダンサーにはパトロンという名の愛人がいて、バレエの脚本などにも口を出す存在だったらしい。また、「バレエ」の会場も合コン/見合い会場みたいに利用されていたようで、「バレエ」自体を楽しむものではなかったみたい。
到底今の芸術として評価されている「バレエ」とは程遠い。全く別物と考えても良い。
そう考えるとこの絵は全く見方が変わってくる。
また、これは邪推かもしれないが、あの非人道的とも言える「トゥ・シューズ」、私は何故あんな人間の体に全く適応しない形の靴を使うんだろう?と以前から不思議だったが、芸術ではなくそもそも非人道的な見世物から出発したという歴史を知ると、妙に納得してしまった。
面白い。
背景を知ることで、全く違う視点が生まれる。
絵は当然作者が書いたモノであり、その人たちは当時の世界を生きていたわけだ。当たり前だが、その当時の文化や政治、宗教の歴史に影響を受けている。そのことを、歴史と絵画の深い知識をもって解説されている。そして、文章自体も面白い。中野さんの本の凄さ/面白さはそこにある。
その他の絵も同様。
1つ1つの絵に歴史があり、当時の文化を知ることが出来る。
いやー、面白かった。
しかし、名画の作者って、何と言うか、不幸な人が多いな。
時代がそうだったと言ってしまえば、それまでだが。。幸福に生きた人はいたのか?と思える。まぁ、幸福に生きた人の話は物語にならないので、語り継がれないのかもしれないが。。
この「怖い絵」シリーズ。既に3巻まで発売されており、3巻で完結。
2巻、3巻も絶対に読もう。
目次は以下。
(各絵画は、画像のリンクもつけてます)
ドガ『エトワール、または舞台の踊り子』
ティントレット『受胎告知』
ムンク『思春期』
クノップフ『見捨てられた街』
ブロンツィーノ『愛の寓意』
ブリューゲル『絞首台の上のかささぎ』
ルドン『キュクロプス』
ボッティチェリ『ナスタジオ・デリ・オネスティの物語』
ゴヤ『我が子を喰らうサトゥルヌス』
アルテミジア・ジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を斬るユーディト』
ホルバイン『ヘンリー八世像』
ベーコン『ベラスケスによる習作』
ホガース『グラハム家の子どもたち』
ダヴィッド『マリー・アントワネット最後の肖像』
グリューネヴァルト『イーゼンハイムの祭壇画』
ジョルジョーネ『老婆の肖像』
レーピン『イワン雷帝とその息子』
コレッジョ『ガニュメデスの誘拐』
ジェリコー『メデュース号の筏』
ラ・トゥール『いかさま師』
先ほど、本書を読み終えたものです。
それぞれの絵画の図版のリンクもあり、非常に助かりました。
こちらのブログに挙げた書評にも、本ページを紹介させていただきました。
ありがとうございました。
MOLTAさん
わざわざコメント頂きありがとうございます。
少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
また、別の本の書評も観に来てください。
初めまして。『怖い絵』に掲載されている絵を、もっと大きく見たくて画像を探しているうちに、ここにたどり着きました。
この本の文章がわかりやすく、また面白い本だという点、私の感想と同じです。
私のブログでもこの本を紹介しましたので、よねおさんのこのページのURLも載せさせていただきましたが、もし御都合が悪ければ、おっしゃってください。削除いたします。
アリソンさん。
コメントありがとうございます。また、このブログへのリンクも全く問題ございません。
この本はほんと面白いですよね。私はクノップフの「見捨てられた街」が一番気に入りました。観た瞬間取り込まれましたね。
アリソンさんのブログも見させてもらいました。レーピンのこの絵もたしかに品があっていいですね。
またブログ覗きに来てください。