ゲイリー・ハメル氏の著書。
会社の上司に薦めれたので買ってみた。
著者の論点は1点。
経営管理をイノベーションすべし!!
・・ということ。
「経営管理」とは、要するに会社経営の手法だ。
財務管理、人事管理、組織管理、予算配分(給与配分も含めて)の管理等々、経営者が考えるべき様々な管理手法。
氏はその手法が、アメリカのフォード社が大量生産を始めた頃からおよそ100年前間、全く進化していないと説く。
何より、この視点が目から鱗。
言われてみればその通り。それに気づかせてくれただけでも、この本を読んだ成果はあった。
イノベーションの階層
本の中で大変わかりやすいイノベーションのフレームワークが載っていた。
左がその図。
下から上に進むにつれ、イノベーション成功後のリターンが大きくなるとのこと。これも納得。
一番下は「業務イノベーション」。
これはまさに今私が会社で実際に行っていること。
だからこそ身に染みる。
ある程度成果は出せたとは思うのだが、正直これ以上大きく変えるところが無く、行き詰っている。そして、それ程大きなリターンを生んでいるわけでもない。
「製品/サービスイノベーション」と「戦略イノベーション」に関しては、今後もっと行っていきたい。まだまだサービス改善の余地はいくらでもあるし、戦略(=プロジェクトと読み替えるが・・)も、もっと新しいコトを色々試してみたい。
で、「経営管理イノベーション」。
考えてみれば、たしかに今の経営管理手法がベストというわけじゃない。会社で起こる問題の根源を辿ると、この「管理方法」に行き着くことも多い。しかし、経営管理手法を変えた方が良い・・・とまで、はっきりと意識したコトは無い。せいぜい社長変えた方がいいと考えるくらい。
社長交代も「経営管理」を変えるコトにはなるのだが、この本で語られているコトとはちょっと意味合いが異なる。
人材能力の階層
本を読むと、氏の「経営管理イノベーション」の主軸は、「人材を活用する」という点にあるように思える。
これも本で紹介されているフレームだが、競争での勝利に貢献する人の能力は、左の図のように階層に分かれているとのこと。これもわかりやすい。感覚的に当たっていると思える。
%は貢献度。とは言え、「従順さ」や「勤勉さ」に価値が無いと言っているのではなく、要するにこの2つは当たり前の前提であるということ。まぁ、これも当然と言えば当然。「従順さ」は「素直さ」と読み替えてもいいかな。。「従順」であることより、「自発性」や「創造力」を持っている人の方が、評価が高いのもよくわかる。
つまり、このフレームの上にある「情熱」や「創造力」が、現在の会社(経営管理手法)では上手く発揮されていないと著者は言っているのである。
現在の経営管理手法
現在の経営管理手法は、実はそれこそマルクスの資本論や最近流行り(笑)の蟹工船ではないが、「雇用者」と「労働者」を明確に区別して、管理する側とされる側という境界線を設けている(さすがに搾取する側とされる側とまでは言わないが・・)。
これが前提。
基本的にこの考えがベースにあり、その上に様々な個々の管理手法が積み上げられている。
組織ヒエラルキーもそうだし、上意下達の報連相(報告/連絡/相談)もそう。年間予算の配分方法なども全てそうだ。
そして、本で紹介されている、以下の現管理者(社長の含め)のベースにある考え。
予想外のことがあってはならない
おっしゃる通り。この考えがイノベーションの推進を大きく阻んでいる。
予算を立てる以上は予想(予測)が必要で、しかしあまりに予測が大きく外れると、株主から指摘されてしまう…だから社員にはなるべく予測に近い数字結果を求め、しかし一方では「創造力」を「新しい事業」を、と声高に叫ぶ。相当矛盾してる。一貫性が無い。
この考えが根っこのところに染み付いてる管理者はほんと多い。
誰だってミスは怖い。
結果、予測しやすい既存プロジェクトにお金が使われ、予測しづらい新規プロジェクトにはお金が回ってこない。悪い循環。
そして、一番根深いのが、
管理者自身が現在の経営管理手法の既得権益者である
ということ。
日本の国(官僚)-地方の分権問題に似ている。
既得権益者である現官僚が、自分達の地位を脅かすような政策を立案するはずがなく、あらゆる手を使って妨害してくる。見苦しい。見苦しいが、それが人間の本質。
その解決策は、この本の中では提示されていない。
実行してる会社例
実行例は、第2部で紹介されている。
今回これを知ることが出来たのが自分の中で大きかった。
本を読んでるとき、著者が主張してる経営管理手法を運営してる会社として、最初に頭に浮かんだのがGoogle社。やはり例としても紹介されている。
しかし、である…
人材のベル曲線(正規分布図)の右端のみ、つまり、世界中の超優秀な人材のみで構成されるGoogleは、正直あまり参考にならないと今まで思っていた。
そりゃ、それだけ優秀な人ばかりいるGoogleなら出来るでしょ?と。。
しかし、どうやらその考えは間違っていた。
(…もちろん人材が優秀であれば、それだけ実現しやすいの確かだが、それは置いておく)
Google以外に2社の会社が紹介されている。
ホールフーズ社と「ゴアテックス」で有名なゴア社だ。
2社とも当然優秀な人材を入社させるよう努めているだろうが、Googleと比較すれば、さすがに能力的に劣るだろうと想像される(何をもって「高い能力」と評価するか…という話も置いておく)。しかし、2社とも見事に既存の経営管理手法に安住することなく、人材活用の独自フレームを生み出し運用している。
この2社の例を見ると、どの会社でもやり方さえ間違えなければ可能なんだと思える。
そう思えるようになったことが、この本読んだ中で、一番の収穫かもしれない。
見えない前提
本の中では語られていないが、著者の考えを実現するには、必要となる見えない前提が結構あるように思う。
まず大前提として、「経営管理」の重要性を認識していること。
ここ、実は一番タチが悪かったりするのだが(笑)、そもそも経営管理なんてことまともに考えていない経営者が(特に日本の場合)多いのでは無いだろうか?
だからこそ、個人的資質でいくらでも変更できるため「社長交代」で総替えできるという良い面もあるが、MBA的な経営マニュアルが無いため会社によってやり方が違いすぎるという悪い面もある(この悪い面は転職時に大変困ることになる)。
「意識(認識)」すらしていない人に「意識」を促すのは相当難しい。考えの根っこに近い部分を変える必要がある。特に「社長」というヒエラルキーのトップであれば、なおさら指摘する人は少ないし、変化のきっかけも少ないだろう。
「従順さ」「勤勉さ」の利点を理解していること、というのも見えない前提かな。
当たり前の前提とはいえ、新しい人材が「従順」で「勤勉」かどうかはわからない。これは「教育」の領分。文化的背景も関係する。まぁ、そもそも「経営」の領分ではないので書いてないのは当たり前だが。
「勤勉さ」を理解していない人に、ある程度年を取ってから教え込むのは相当骨が折れる。考えてみると、「管理」の重要性を理解しているかどうかも本質は同じ。
特に日本の場合、この「教育」の問題は根深く、優秀な人材を生む土壌が腐りかけている(というか、既に腐っている)。本書の「経営管理」の問題も重要だが、その前提の「教育」の問題ももっと重要。そこまで踏み込まないと諸々解決出来ないという「問題の複雑さ」が、現在の日本社会の「先行きの不透明さ」に繋がり、全体的に暗い雰囲気になっているのかな?と、本書読んでて考えたりした。
(実際「教育」まで辿るならば治療に半世紀はかかる)
最後に
後は、実際に経営管理イノベーションをどう実行するか等々が書かれている。
「新しい原理を見つける」の章では、「生命:多様性」「市場:柔軟性」「民主主義:積極的な参加」「信仰:意味」「都市:幸運な出会い」の5つの設計原理が紹介されている。
また、「周縁から学ぶ」の章では、月並みではない新しい視点を持ったアイデアを得るためにの方法などが紹介されている。
この辺はあまり個人的には興味をそそられなかった。
経営に意見できる立場になってから、改めて本読もうかなとも思う。
全体的に全てを理解できたわけではないと思うが、主題に関しては大変納得。今後会社の経営について考える際や、例えば転職時に会社を評価する際にも、かなり参考になる。
会社組織に不満や疑問を持っている人は、本書を読むことで、その根本原因に辿り付くかもしれない。
以下は目次。
序文
第1部 なぜ経営革新が重要なのか
1 古い「経営」は破綻している
2 究極の優位性を築く
3 経営革新の課題
第2部 経営革新の実際
4 目的を組織内で共有する――ホール・フーズ・マーケット社の場合
5 経営革新の民主化を確立する――W・ L・ゴア社の場合
6 優位性の持続を狙う――グーグル社の場合
第2部 経営革新者になるには
7 束縛から逃れる
8 新しい原理を立てる
9 周辺から学ぶ
10 経営革新を始める
結論 未来型経営の確立