佐々木俊尚さんの著書。
著者は、元毎日新聞の記者。その後、月刊アスキーのデスクを経て、現在はフリーのジャーナリスト。主にIT関係の取材をされているらしい。
この本は現在のウェブ社会の状況を捉えた上で、氏の今までの経験から、今後ウェブ世界が進むであろう、1つの形を予測した本になる。
目次は以下の通り。
プロローグ
第1章 情報共有圏という考え方の誕生
第2章 暗黙ウェブの出現
第3章 「信頼」と「不安」を生むシステム
第4章 ウェブ3.0は「信頼」と「友情」を両立させる
第5章 「情報の非対称性」が大問題だ
第6章 インフォコモンズ後の世界の姿
おわりに
著者が主張する「インフォコモンズ(情報共有圏)」という考え方は、著者の造語だ。
一言で言ってしまうと、要するに「情報を核にした共同体」のこと。
現実社会では、日本には「中間共同体(マジックミドル)」が昔から存在し、その中間層が社会の包摂性をある程度実現してきたわけだが、昨今この共同体が崩壊し、バラバラの個人に人間関係が切り離されてしまっている。
ウェブの世界では「Web2.0」の概念が生まれ、その概念をある程度具現化したサービスであるSNSやブログやRSSなどにより、個々人が自ら情報を発信/受信しやすい環境は整って来ている。著者は、情報の世界ではこの「中間共同体」は徐々に勢力を拡大していると言う。
これを「パーソナル(個人)」—「中間共同体」—「マス(大衆)」というフレームで比較している。
個人から発信している情報は増え続けているし、マスメディアの信頼性は薄れ、マスメディアより有名ブロガーが発信した情報を信頼する人が増え、情報の価値はフラットになってきている。
たしかに、中間層の割合は高くなっていると言える。
(まぁ、これを「中間共同体」と呼んでよいのかどうかは別として。。。)
この「インフォコモンズ」のアーキテクチャの条件として、著者は以下4つを挙げている。
(1)暗黙ウェブである
(2)信頼関係に基づいた情報アクセスである
(3)「インフォコモンズ」が可視化されている
(4)情報アクセスの非対称性を取り込んでいる
それぞれを具体化したサービス(技術)として、(1)はAmazonのレコメンドシステム、(2)は「アットコスメ」、(3)は「フェイバリットDB」、(4)は「デクワス」などが挙げられているが、それぞれに欠点があり、著書の言う「インフォコモンズ」を実現するには至っていないらしい。
正直、ちょっとこの本では、「共同体」は現実社会とサイバー世界ではかなり意味合いが違うと思うのだが、その辺の概念が整理されてなかったり、パーソナル(私的)とパブリック(公的)の概念も、個人の日記が公開されているからと言って公的なモノのはずが無く、非私的かつ非公的なモノもあると思うのだが、それが単純な2項対立になってしまってたりと、著書が言いたい主題とは関係無いところで引っ掛かるところは結構あったのだが、次のウェブ世界がどう発展していくかを考える上で、「インフォコモンズ」の概念はすごく面白いと思う。
作品で紹介されていたが、アメリカのあるサイトが開いたコンテストで優勝した、以下「Web3.0」の定義は次のウェブ世界を占う上で、すごく示唆に富んでいる。
Web1.0は、集中化した彼ら
Web2.0は、分散化したわれわれ
Web3.0は、非集中化した私
初期のWebは単にマスメディアの1手段でかしかなかった。
次のWebは情報の価値がフラットになり、1個人が情報発信するようになった。
さてその次は?
一時期、「Web3.0」なんて言うとバカにされたモノだが、たしかにもう論じても良い時期だと思う。
ブログやSNSもこれだけ普及したことだし、実際次の新しいサービスが生まれる気配は無く、大手SNSサイトなども行き詰まりを感じる。
検索手段として、今のポータルがもう限界だと感じているのもたしか。
実際に仕事として関わっているだけに余計そう感じる。
情報量が多くなりすぎて、とにかく、望む情報が見つけにくいのだ。
まぁ、「非集中化した私」と言っても、情報の非対称性はどうしても生じてしまうので、誰かどこかに集中化してしまうのはやむを得ないとは個人的に思うが(それが個々人の「力量の差」になると思うし)、しかし、より個々人が「連携しやすくなる」、より「情報を受発信しやすくなる」状態というのは望ましい。
ウェブに関する仕事をしている人であれば、今後の方向性を考える上でも、読んでおいて損の無い本だと思う。