貧困大国アメリカ

堤未果さんの著作。

氏はアメリカでアムネスティや野村証券で働いた経歴を持ち、今はジャーナリスト。

アメリカの「貧困」に関する現状を分かりやすくまとめてある。
「貧困」の背景にどんな仕組み、力学が動いているのか?

価格も700円だし、まず概要を理解する上で最適な入門書だと思う。

目次は以下の通り。

第1章 貧困が生み出す肥満国民
第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
第4章 出口をふさがられる若者たち
第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」

プロローグ〜1章から読んで行くと、様々な領域で、アメリカの貧困層(低所得者〜中間層)の生活がいかにボロボロな状態かがよくわかる。

生活の中の「」では、昨年話題になったサブプライムローンの問題が未だ続いており、すでに回復不能なほどの経済的/精神的ダメージを、貧困層の人々に与える結果となっている。

また、「」では、良くテレビで放映されるアメリカ人の肥満体型が、単にマクドナルドなどファーストフードを好んで食べた結果ではなく、構造的に食べざるを得ない状況に追いやられた結果としての「肥満」ということが理解できる。

医療」ではバカみたいに高い医療費の問題。
これは、去年上映された、マイケル・ムーア監督の「シッコ」を見るとさらに理解が深まる。

教育」は、日本でも近年親の収入で子供の学歴が固定化してしまう「教育格差」として問題になっているが、アメリカはさらに酷い様子で、大学を卒業してもまともな働き口が無い。
大学の学費も年々上がっている。
最低でも大学院を出ていないと良い働き口が無い。

先行投資と考えて大学へ行き、働いてから借金して払った学費を返済しようと考えている人は、当てがはずれて借金のみが残る。

就職」はさらに酷い。
上記の様々な要因で働き口が無く、社会的な保証も無く、アメリカン・ドリームを夢見る可能性さえ断たれたと感じた若者達は、軍隊へ「就職」する。
「大学の学費免除」「医療保険」「市民権の獲得」など、かなりおいしいエサに釣られて。。

また、軍隊以外にも戦争で生まれる需要(雇用先)があり、似たような境遇の人達は、危険とわかっていながらも、生活のため戦場へ派遣される。
戦争派遣ビジネスは相当潤っているらしい。

これらの問題は、構造的には全てつながっている。
問題の本質を一言で言うと、
「市場原理主義による民営化」

本来公共でサービスすべき領域を、民営化してしまった結果起こっている事象だ。

「住」は民営でも良いが、「医療」や「教育」や「戦争(戦争をサービスと呼ぶのは抵抗あるが。。」に、市場原理を導入するのは間違っている。

病気をしただけで解雇されてしまうなど論外。
こんな社会で誰が安心して働けるのか?

最低限の生活が保証されていない人達は、「生活」のためという名目で、自分の理念に反する選択でも致し方なく選んでしまう。
そして、それは明らかに意図的にシステムに組み込まれている

幾重にも複雑に絡み合った「貧困」へ通じる網は、一度転落すると這い上がる道を断ってしまう。
頑張ろうという気力が徹底的に削がれる。
かくて、無気力な若者が量産される結果となる。

日本の若者も状況は似ているが、まだアメリカよりマシ。
ワーキングプアもまだ少数。
しかし、いずれ同じ状態になることを想像しておいた方が良い。

こんな社会で生活したいのか?

ワーキングプア層の大多数が、先の郵政民営化選挙で社会保証を削いだ自民党(小泉)に投票した事実は皮肉でしかないが、そんなバカな選択をしないためにも、この本を読んで、このまま進めば日本が、というよりも、自分の生活がどうなるのか?想像を巡らせてほしい。

今のところ「貧困大国アメリカ」にコメントは無し

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