中野京子さんの著書。
シリーズ3作目にして完結作。
前作と前々作の「怖い絵」と「怖い絵2」は書評書いてるので、そっちで確認してもらいたい。ここまでシリーズ読んだので、完結作も読むのは当然の流れ…という理由で手に取った本。
今回もほんと楽しませてもらった。
中野さんの深い知識で紹介されてるからこそなのだが、絵画よりもやはり歴史の方が面白い。自分にとっては。
例えば、「ジン横丁」。
場所はロンドン。そして、ジンは今でも普通にお酒として飲んでる、あのジンだ。ジントニック好きな自分としては、普段からお世話になってる。
しかし、当時のジンは相当な粗悪品で、安くアルコールを摂取したい下層の人たちの愛用品だったとのこと。ジン欲しさに犯罪なども起こったらしい。そしてお酒に溺れていく。。この絵と対を成す同画家の絵「ビール街」。こちらは中層、上層の人達であろうか。。ビールを飲んでおり、町並みや登場人物の服装を見ると、清潔な印象を受ける。登場人物が正体を無くし、金貸し屋や葬儀屋という社会の負の面が強調されている「ジン横丁」とは対照的だ。
そして、「アンドリューズ夫妻」。
正直言って何てことは無い絵だとは思う。裕福そうな夫婦の絵。
しかし、その社会的な背景を想像するとたしかに怖い。
当時は、領主⇒小作人⇒農業従事者という階層で分かれており、農業従事者も余った農地や牧草地の共益権を与えられ、日々の糧を得ていたそうだ。しかし、農業革命が起こり、畑を年中フル回転生産できるようになると、領主は土地を独占し始める。農業従事者は目先のお金欲しさに土地を手放し、結果として領主&小作人はますます栄え、農業従事者は田舎では生きていけなくなり、都会へ弾き出されることになる。その結果が、この何てことは無い絵の田園風景。誰も働いてる人が居ない。
まさに格差社会。今でも共通の課題だ。
その弾き出された人達が、ジン横丁でジンに溺れる。
社会的背景を知ると、この2つの絵は繋がっていることがわかる。
何よりも怖いのが、富める者達のさらなる欲望。「強欲」。
それが一番怖い。
このシリーズ3作で絵画をほんとに楽しませてもらった。
そして、共通して感じる結論はと言うと。。。
「人間が一番怖い」。
人間はほんとに不完全で愚かな生き物だな、そして昔からそれは変わっていないんだな、ということを、過去の絵画という歴史書を通して改めて学んだ気がする。自戒。
以下は目次。
(各絵画は、画像のリンクもつけてます)
作品1 ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』
作品2 レーピン『皇女ソフィア』
作品3 グイド・レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』
作品4 ヨルダーンス『豆の王様』
作品5 ルーベンス『メドゥーサの首』
作品6 シーレ『死と乙女』
作品7 伝ブリューゲル『イカロスの墜落』
作品8 ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』
作品9 ミケランジェロ『聖家族』
作品10 ドラクロワ『怒れるメディア』
作品11 ゴヤ『マドリッド、一八〇八年五月三日』
作品12 レッドグレイヴ『かわいそうな先生』
作品13 レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』
作品14 フーケ『ムーランの聖母子』
作品15 ベックリン『ケンタウロスの闘い』
作品16 ホガース『ジン横丁』
作品17 ゲインズバラ『アンドリューズ夫妻』
作品18 アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』
作品19 アンソール『仮面にかこまれた自画像』
作品20 フュースリ『夢魔』