あたらしい戦略の教科書

酒井穣さんの著書。

酒井さんの本は、以前「はじめての課長の教科書」という本を読み、このブログでも書評を書いたが、非常に解りやすく、今までにありそうで無い、面白い本だった。

この本は「戦略」を真正面から扱った本だが、よくよく考えると「戦略」だけを切り出して、ビジネス向きに噛み砕いた本というのはあまり無かった気がする。

氏もこの本で書いているが、企業経営やマーケティングなどもっと大きな枠組みから出発して、その上での戦略/戦術という解説本は結構あるのだけど。。

前回の本もそうだが、ありそうで無かった本を、非常に解りやすい文章で解説されている、氏の慧眼と力量は凄いなーとつくづく思う。

さて、目次は以下の通り。

はじめに
第1章 戦略とは何か?
1 戦略とは「旅行の計画」である
2 大学受験の戦略を考える
3 戦略は、時間とともに成長する
4 戦略における完璧主義のワナ
5 戦略は中心メンバー選出から始まる
コラム 戦略と戦術の違いとは?

第2章 現在地を把握する 情報収集と分析の手法
1 情報力が戦略を簡単にする
2 集めるべき情報・行うべき分析とは何か?
・コラム フェラーリの競合とは?
3 顧客情報こそキングである
4 情報収集の3つのステップ
5 情報収集の現実
6 情報分析の基本

第3章 目的地を決定する 目標設定の方法
1 目標は何のためにあるのか?
2 目標設定の怖さを理解する
3 戦略立案を刺激する優れた目標・5つの条件
・コラム 「熟達目標」という考え方

第4章 ルートを選定する 戦略立案の方法
1 戦略は本当に必要なのか?
2 スイート・スポットをシェアし、戦略を育てる
3 新しいアイデアが本当に求められるとき
・コラム 戦略の立案力を養うトレーニング
4 クイック・ウィンのテスト・ケースを走らせる
5 立案される戦略の構造
6 やめるべきことを常に探す
7 リスク対策と、代替案の準備を忘れずに
8 戦略のキャッチ・コピーを考える

第5章 戦略の実行を成功させる
1 人を説得するための方法論を知る
2 組織トップのコミットメントをマネジメントする
3 組織内で、危機感と希望を共有する
・コラム 魔法の数字 7±2
4 情熱の伝染を起こす
5 組織内に、「やさしい空気」をつくりだす
6 戦略の実行に反対する人々との戦い
7 戦略の実行に使えるノウハウ集
・コラム カーナビに学ぶ戦略の実務
あとがき

「戦略」と聞くと、どうしても経営的なニュアンスが感じられ、身構えてしまう人が多いと思う。

しかし、氏は「戦略」を「旅行の計画」だと喩えているが、そう考えると皆が理解しなければいけないことがわかる。
旅行に行くメンバーであれば、誰であれ計画は知っておくべきだ。
(計画を自分で把握せず全て他人に聞く人もたまにいるが、私は正直言って、そういう人と一緒に旅行は行きたくない。。)

氏は、「戦略」は実行する現場からのボトムアップで立案する必要があると説く。
たしかに、あまりに現場とかけ離れた戦略を立てられても実行する気はしない。
現実には、現場の意見をあまり取り入れず、「戦略」が考えられることが多いように思う。

だからこそ、この本を読んで何故ボトムアップから立案すべきか理解した方が良い。

さて、この本の構成だが、非常にわかりやすい。

最初の「戦略」の定義で「旅行の計画」と比喩し、それに沿って、「現在地把握」⇒「目的地決定」⇒「ルート選定」⇒「実行」という順番で説明できるよう構成されている。これは、実際に旅行に行く際も同じ工程を踏むので、頭に入りやすい。

以下、それぞれの章を読んで感じたことを記してみたい。

現在地把握

「現在地把握」では「情報の収集と分析」を行う
当然なのだが、情報収集能力がそのまま力の差となる。

まずは情報をできる限り集め、その情報から分析を行い、戦略を立てる。

この工程の話でタメになったのが、多くの情報とは不完全であり、わずか5%のウェット情報から戦略を立案する場合が多い、ということ。これが事実ならば情報の精度云々を言い続けても始まらない。。とりあえず実行するコトがいかに大事かということがよくわかる。

また、筆者の経験値だと思うが、「収集6:分析4」という比率。
こういう経験則というのは非常にタメになる。
早速参考にさせてもらおうと思う。

目的地決定

「目的地決定」では、以下5つの目標の条件を挙げている

(1)リーダーが設定した目標であること
(2)3年程度の期間で到達したい目標であること
(3)背伸びすればギリギリ届く高さの目標であること
(4)測定できる目標であること
(5)利他性のスパイスが入っていること

3番など、ほんとその通りだと思う。

個人的には(性格にも寄ると思うが)、「背伸びすればギリギリ」というラインが、一番反骨心を煽って、やる気が起きる。

ルート選定(戦略立案の方法)

ここでなるほどと思ったのが、「戦略という旗」はフィードバックやアイデアが集まる中心軸になる、という考え。

よく考えれば当たり前なのだが、実際に組織の中にいると、実践するのが難しかったりする。

「ストラテジック・プリンシプル(戦略方針)」=「戦略のキャッチ・コピー」が必要というのも同じ考えに基づいていると思う。

要は「旗」に書く「家紋」が必要というわけだ。

どんなに能力や技術力が高い人が集まってても、「旗」が無く個々人がバラバラのままでは、まとまったチームを相手にすると、なす術も無く惨敗する。

これは頭ではわかっていても、なかなか実践できない。
そもそも、その「旗」に賛同して参加しているメンバーかどうかがわからない。
参加する動機は十人十様。。
技術力だけを軸にメンバーを構成すると、必ずと言っていいほどバラバラになる。

やはり同じ場所で協力し合う以上、ある程度共通した価値観は必要ということか。。

実行

1人で実現できない以上、他人の協力は不可欠。
つまり、実行する上では、他人へのプレゼンが重要になる。

他人が社長でも部長でもメンバーでも同じ。

説得する上で、相手により方法を変えるのは当然だが、紹介されてるタイプ分けが面白い。始めて見た。

自己主張の強い/弱い、感情が表に出る/出ないの2軸から、それぞれ「プロモーター(自由奔放)」「コントローラー(専制君主)」「サポーター(縁の下の力持ち)」「アナライザー(求道者)」の4タイプに別れる。

血液型という古典的なタイプ分けもあるが、科学的かどうかは置いておいて、タイプ毎の特徴は確実に存在する。こういった様々なタイプ分けのパターンも、今後活用していきたい。

ここでタメになったのが、「魔法の数字「7± 2」」。
「7± 2」は人間が短期記憶化しやすい数とのこと。

なるほど、これを意識して、資料を作るときに章やトピックの「数を整える」と効果がありそう。。

改めて考えてみると、今まで読んで理解しやすかった本は、この数で整えられてた気がする。

この本ももちろんそうだが、既に身を持って実証済みのことなので、今後絶対に活用しようと思う。

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かなり長い書評になったが、それだけ得るものが多かったということ。

私は、中長期的な「戦略」は、これからの日本(政治など)にも日本人(ビジネスなど)にも絶対に必要なものだと考えている。

「戦略」を理解して活用できないと、今後日本は様々なジャンルでズルズルと落ちて行き、他国と差が広がっていくであろうコトも確信している(…一番心配なのが「政治」と「教育」。そしてその結果として「経済」)。

なので、ビジネスに関わっていない人も、ぜひこの本を読んで欲しい。

著者が「旅行の計画」と喩えたように、日常の様々な場面でも「戦略」は必要なのだから。。

あたらしい戦略の教科書」に2件のコメント
  1. 酒井穣
    2008/08/17

    こんにちは。本書のお買い上げ、ありがとうございました。また、とても嬉しい書評をありがとうございます。

    おっしゃるとおり、旅行の計画を知らず、何でも幹事任せの人とは旅行したくないですね(笑)。本書の内容に含めても良いほど、鋭い視点だと思います。

    今後とも、よろしくお願いします。

  2. yone
    2008/08/18

    酒井穣さん。

    前回の「はじめての課長の教科書」に引き続き、コメント頂き、ほんとにありがとうございます。

    凄いですねー。さっき書いたばかりなのにもうコメントが。。(笑)
    ご自身の本について書かれたブログを常にチェックされているのですか??

    反応の早さにちょっとびっくりしました。

    今回の「戦略」本もとても面白く読ませて頂きました。

    次回作期待しています。

    また寄ってください。
    ありがとうございました。

    ※酒井さんはオランダに住まわれているんですね。。自分は仕事とプライベートで何回かオランダへ行ったコトがあり、妙にオランダと縁があります。ので、思わず反応してしまいました(笑)

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