レイヤー化された世界とTPP交渉の状況を踏まえて

つい先日、佐々木俊尚さんの新刊「レイヤー化する世界」を読んだ。

「中世」⇒「近代」と過去を遡ることで、今後のネット&グローバル化が今以上に進む「未来」を予測する内容の本。

その予測される「未来」は、氏の既存の本でも繰り返し描かれている世界観なので、あまり新しい知見は無かった。(ただし、現在につながる「中世」「近代」はすごく面白かった。こんな過去からの時間の流れがあって、今があるんだなーと再認識できた。)

TwitterやFacebookなどが普及し、ネットが世界中に張り巡らされ、様々な人とコミュニケーションを通じてコネクションを結べる世界。そして、グローバル化した多国籍=無国籍(本書では「超国籍」と書いてた)企業は、税金も出来るだけ払わず、自国内で雇用も生み出さず、富を再配分しないまま、自社の利潤のみをむさぼる世界。

個人はよりバラバラに細分化される。
当書の中では、その細分化された個人の属性を「レイヤー化」と名付け、そのレイヤーに光を当てて貫通したプリズムが「個性」になる、と述べている。
その個性を磨くしかない、と。

このレイヤー化の概念は、自分のようにITの世界にどっぷりと浸かってる人間にはすごくわかりやすい。ネットワークのOSI参照モデルとか、FireworksやPhotoshopなどのツールにもレイヤーという概念はあるので、頭にすんなり入ってくる。別の業種の人にはちょっとわかりづらいかもしれんけど。。

ただ、この「未来」、正直言って、全く明るい「希望」を抱くことは出来ない。

それは、本を読み終わった翌日観た、ビデオニュースドットコム(マル激)の「これがTPP交渉の内幕だ」を観て改めて痛感してしまった。
http://www.videonews.com/on-demand/631640/002807.php

このビデオニュースドットコムは毎週観ていて、毎回マスメディアでは取り扱わないネタを取り扱ってくれて大変ありがたい情報源なんだけど、今回の「TPP交渉」に関する話を聞いて、とにかく憂鬱になってしまった。まぁ、今回のネタに限った話ではないけど・・。

番組の内容は、既にアメリカ中心に他国間で始められてるTPP交渉は、明らかに日本に不利な内容になっており、しかもアメリカという国家、というより、アメリカの大手企業が利益を最大化するために、各企業の関係者が交渉に入り込み、日本国内で利益を上げるための様々な規制緩和を条件として突きつけている、というもの。日本は7月末頃に交渉開始する予定らしいが、実質交渉できる期間は2〜3日ほどしかなく、あとは調印するかどうかの判断だけ、という状況らしい。

このTPP交渉に参加してるアメリカの大手企業、以下のように様々な業界の企業が名を連ねている。

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IT業界ではMicrosoftやオラクルやIBM、保険業界ではアフラック、家電業界ではGE、自動車業界ではGM、金融業界ではゴールドマン・サックス、製薬業界ではファイザー、小売業界ではウォルマートなどなど。。

仮にこの状態でTPPに調印してしまったら、ノーガードのままアメリカ大手企業がなだれ込んできて、日本の国内企業の多くが倒産の憂き目に合うんじゃないだろうか?

とは言え、だからアメリカの企業が悪い、というつもりはない。
企業として利益を上げるために当たり前のコトをやっているだけ。
問題は日本側にある。
「何故TPPに参加するのか?」という理由がまったくわからない。

番組でも繰り返し語られているが、「アベノミクス」だの「第3の矢」だの「アジア市場の開拓」だの、抽象論ばかりで、TPP参加することで、どの商品がどれくらい売れ、逆にどの業界がどれくらいダメージを受けて、結果全体でどれだけ売上げ(メリット)があるかが全くわからないのだ。

この状態で参加してメリットなどあろうはずがない。

実は「どうすれば良いのか?」というWhatについては、マル激で宮台氏が今回の番組だけじゃなく過去の番組でも繰り返し何度も言ってる。

地産地消」。
少しくらい値段が高くても、顔の見える生産者が作った商品/食品を買うというスローフード運動の推進。私もこれしかないと思う。よってTPPに参加する必要なんてない。

しかし・・「どうやって実現するか?」そのHowがわからない。

これは1つの価値観なので、それを人々にインストールして実際に行動に移す必要がある。しかし、どうやって???この価値観が無いと、安かろう悪かろうの商品に必ず人は飛びつく。人は必ず低きに流れるので。

古い世代には期待できないので、新しい世代に期待するしかない。であれば、方法は1つで「教育」しかない。では誰が教える?何を教える?変えなくていけない制度は山ほどある。仮に制度改革できたとして、「教育」の結果が出るのは20年くらいはかかる。その間は何とか現役世代が踏ん張るしかない。しかし、今の現役世代が踏ん張れるか?正直、あまり期待ができない。この世代が形成してる世論が今の体たらくだ。ましてや、民主導の民主主義なんて・・。

しかも、この「民主主義」という制度にもかなり欠陥が見えてきた。

佐々木さんの新刊にも書いてある、マル激でも何度となく主張されている「民主主義の限界」。というより「終焉」と言った方が良いかな?最近実感としてすごく感じている。

民主主義は経済が成長し続けないと成り立たない、そもそもあり得ない前提に立っている制度。経済成長しなくなる(パイが増えなくなる)と、とたんに、パイの奪い合い⇒格差拡大⇒雇用不安⇒社会不安⇒排外的ナショナリズム⇒孤立⇒戦争⇒国力低下(疲弊)⇒人口減・・、と負のスパイラルに入り、ヘタをすると第二次大戦後の状態に戻ってしまう。もはや成長などしない先進各国では「民主主義」は制度としては終わっている、と認識して、そこから出発した方がよいのではないか?日本だけじゃなく、最近の他国の政府の経済含めた対策を見ていても、政府が出来ることなどほとんど無く、多国籍企業のサポーターくらいしかやることが無いんじゃないか?と考えたくなる。現在の生活に対しても、将来の展望に対しても、「不安」が増大している現状では、「民」に任せていたら安易なポピュリズムに確実に流れる。メディアの後押しもある。ウチウチに籠もり、ソトに敵を作って排外的なナショナリズムを形成する。結果、ソトの国々と中がもっと悪くなりさらに孤立する。世界的に不安定になる。

では、民主主義に代わる何か良い制度はあるか?

ない。全くない。
「民主主義は最悪の政治である。民主主義以外の政治体系を除けば。」と言ったのはチャーチルだったか?
中国のような独裁国家体制などもっての他だし。

だからこそ、希望が無い。絶望感を感じる。

佐々木さんが新刊で結論として語っている、①レイヤー化する、②場を利用する、というのは個人が生き抜くには必要なHow toだろう。

私の方向性とも重なるし、これからも努力は続けるつもり。ただ将来どうなるかはわからない。
そして、おそらくそれが出来る(成功する)のは限られた人だけ。あとは中流から下流に確実に落ちていく。

その際に、貧しさを受け入れて、それでも幸せを感じられるような新たな価値観を手に入れることが出来るか?それとも、不安だけが増大し、お互いを信じられなくなり、社会が不安定になって暮らしづらい国に変わってしまうのか。。

私は望みがあるとすれば、「貧しさ」のその先だと思ってる。
日本人はおそらく貧しさをそれほど苦にはしない国民だと思う。私も含めて。それほど欲しいモノもないし、お金も必要以上に欲しいとは思わない。欧米人ほど強欲ではない。ちょっと昔の「足るを知る」価値観を多くの人が身につけ実践する(・・というより、多くの人は既に身に付いてると思う。上記のように「教育」する必要が、時間的ロスがない。)。そうすれば、GDPが世界10位くらいになったとしても、幸せを感じられるような生活はできるはず。そこに新しいITが有機的に絡み合っていく。コネクションを結んでいく。人とのつながりは増えていく。そんな「未来」であれば実現可能ではないだろうか?

いい加減、幻想の「成長」なんて追わずに、底に落ちてしまった方が、この国で幸せに生きていけるんじゃないだろうか?、と今の日本で生きていると本気で考える。

いずれにせよ、今のままではダメってことだけは確か。
本を読み、番組を見て改めて痛感した。

答えがある問いではない。考え続けるしかない。

今のところ「レイヤー化された世界とTPP交渉の状況を踏まえて」にコメントは無し

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