藻谷浩介氏の著書。
氏の本を読むのは初めて。
この本の主張は、サブタイトルにもなっている通り、経済は「景気の波」ではなく「人口の波」で動く、という一言に尽きる。
いやー、読後の感想を素直に述べると、久しぶりに目から鱗がボロボロ落ちまくりの良著でした!!
最近経済学者の本をちょこちょこ読んでたからなおのこと。。
経済学のGDPや失業率をベースにした「景気」の話は理屈はわかるんだけど、それが実情を表してるとはどうしても思えず、全く腑に落ちなかったのだけど、この本読むことでその理由がはっきりとわかった。
そうだよ、「人口動態」なんだよ、原因は!
この単純な事実を説明するために、1冊費やして、徹底的にデータで説明をしている。
まず、第2章で、実は日本は国際経済では今だ勝ち組なんだと証明している。
貿易黒字はバブル以降も右肩上がりで増え続け、リーマンショックでガクっと落ちたが、それでも成長著しい中国からも台湾や韓国などのアジア諸国とも、2008年時点でそれぞれ3兆円前後の黒字額をたたき出している。(氏は、日本を「ご近所の宝石屋」と表現している。)もちろん、安定した地位じゃない。スイスやイタリアなど強い「ブランド」品を生産している国との貿易は赤字なので。日本は今後独自のブランド力を築いていく必要はある。それに、その儲けが働く人に回ってるかどうか(労働分配率)は別問題だしね。
しかし、バブル以降の経済成長率の平均が1%前後だから、つまり経済成長していないから不況、というわけではないコトはデータを見ると一目瞭然。
さらに氏は、小売販売額、雑誌書籍販売部数、新車販売台数、貨物総輸送量、自家用車による輸送量、酒類販売量などが軒並み落ちていることを指摘する。しかも、同じ時期に実質GDPが上がっているにもかかわらず!!これは明らかに「内需が縮小」しているということ。お金を使わなくなっているのだ。
また、よく言われる首都圏と地域間格差の話も、小売指標と個人所得のデータから、全くのデタラメであることを説明している。バブル後の数年は実は個人所得は伸びてたわけだ。そして、その後から落ち始める。で、一番景気の良い県は沖縄で、その他は東京など首都圏も地方も五十歩百歩。ジリ貧である。(・・沖縄が何故景気が良いのかも、理由を知ると少し暗くなってしまうが。。)。
その帰結として導かれるのが、「現役世代の減少」と「高齢者の増加」。
高齢者はお金を使わない。だから景気が良くならない。そして、現役世代にお金が回らない。
これが不景気の原因なんだ!!
(「「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀」という章では、過去と未来の半世紀を人口動態を軸に説明しているが、すごく面白いのでココだけでも読むことオススメする。)
だからと言って、高齢者がダメ・・って言ってるわけではない。年取ってお金使わなくなるのは普通。医療費は増えるだろうけどね。著者の主張は、まずこの事実を認識しろ!ということ。
さて、後はその処方箋だが、氏が提案するのは以下3つ。
①生産年齢人口が減るペースを少しでも弱めよう
②生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し増やそう
③(生産年齢人口+高齢者による)個人消費の総額を維持し増やそう
この3つを実現できなければ、「経済成長」しても無駄。逆に、「経済成長」しなくても、この3つが実現できれば良いということ。後の章は、これを実現するための具体的な提案に割いている。この辺は実際に本を読んで内容確認してちょーだい。
1つ勉強になったのが「付加価値額」の定義。
「生産性」=「付加価値の総額」というのは知っていたが、「付加価値」=「利益」だと思っていた。実は違って、「付加価値」=「利益」+「コスト(人件費や賃貸料など地元に落ちるコスト)」とのこと。つまり、利益がトントンでもその過程で地元にお金落とせば付加価値は増える。また、薄利多売で利益が薄く、効率化がギリギリまで為されている産業は付加価値が少ない=生産性が低いというわけ。なるほどねー。。
また、面白かったのが、以下の「SY・GM・KY」という考え方。
- SY:数字を読まない
- GM:現場を見ない
- KY:空気しか読まない
私もデータを扱う仕事をしているので、自戒の意味も込めて、忘れないようにしたい。
とにかく、この本は文句なしにオススメ!!
今後の社会を考える上で、絶対に読むべき本です!
以下は目次。
思い込みの殻にヒビを入れよう
国際経済競争の勝者・日本
国際競争とは無関係に進む内需の不振
首都圏のジリ貧に気づかない「地域間格差」論の無意味
地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」
「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀
「人口減少は生産性上昇で補える」という思い込みが対処を遅らせる
声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち
ではどうすればいいのか(1)高齢富裕層から若者への所得移転を
ではどうすればいいのか(2)女性の就労と経営参加を当たり前に
ではどうすればいいのか(3)労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入を
高齢者の激増に対処するための「船中八策」
ブログ「高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門」http://abc60w.blog16.fc2.com/
カテゴリ:藻谷浩介
もご参照いただければ、幸いです。よろしくお願いいたします。