FREE(フリー)

クリス・アンダーソン氏の著書。

氏は雑誌「ワイアード」の編集長。昔日本版の「ワイアード」を読んでいた自分としては、大変親近感が湧く人物。既に10年以上前なんだけど、こういう素晴らしい雑誌が廃刊になってしまう辺り、現在のすっかり廃れた雑誌業界の走りでもあったんだなーと、今になって思うところ。。(昔日本版「ワイアード」の編集長で、その後「サイゾー」を立ち上げた小林弘人氏が、この本を監修してるのが面白い(笑))

さて、この本は、「FREE」について書いた本。
「FREE」は”Freedom”のことではなく、”Free of charge”のこと。つまり「無料」についてのお話。インターネットで当たり前の「無料」サービスを、如何に収益化(マネタイズ)するか、その処方箋を与えてくれる。今の時代に完璧に適合した素晴らしい本だった。

まず、本書の最初でFREEのビジネスモデルを紹介している。

1.直接的内部相互補助
2.三者間市場
3.フリーミアム
4.非貨幣市場

「直接的内部相互補助」は、無料商品と有料商品の抱合せ販売。1つ買えば2つ目はタダなどがこのモデル。レンタルで数本借りれば1000円均一とかもこのモデルかな?結局1個人が料金を支払う。

「三者間市場」は伝統的な広告モデル。企業が広告料を支払い、第三者(試聴者)がFREEでTVやラジオを視聴できる。

秀逸なのが、「フリーミアム」。これも割とよくあるモデルだが、一部のユーザがプレミアム機能に対してお金を払い、その他多くのユーザが基本機能のみ無料で使うというモデル。Google Earthやニコニコ動画、iPhoneアプリでもこのモデルで提供してる会社が結構多い。

オンラインゲーム限定だが、「フリーミアム」の成功モデルも紹介されてる。

1.バーチャル製品の販売
2.会費
3.広告
4.不動産
5.商品

ニコ動は「会費」モデル。携帯サイトのモバゲーは「バーチャル製品の販売」だな。アバターのオプションに対して課金させてるわけだし。「広告」はいいとして、日本ではブームで終わったSecondLifeは「不動産」モデルだな。。「商品」は、リアルの「商品」とネットを絡めたモデル。日本では何か例があったかな??

さて、「非貨幣市場」は「共有(Share)」を産業にしたモデル。そこでは「注目」と「評判」が対価となる。Webサイトで言えば、「注目=トラフィック(アクセス)」で「評判=被リンク」だ。単に注目され評判となるだけではお金は得られない。そこからさらに収益化の仕掛けが必要。これは一番わかりやすい例がGoogle社の広告。Googleの検索エンジンは無料だが、注目(アクセス)を集めることで、広告費を収益化している。

これだけでもかなり示唆に富んだ視点なんだけど、その他にもかなり興味深い「対比」を示してくれている。

1つ目は「希少」と「潤沢」。
「潤沢」になることで、人は注意を支払わなくなる。そもそもインターネットでFREEが実現されたのも、インターネットの技術や資産がかなり「潤沢」になった結果。回線費用やストレージ費用は、今では「限界費用」がゼロじゃないかと思えるくらい1人辺りの値段は安くなっている。大規模なサービスであればあるほど。。

であれば、「潤沢」のモノの中に一部「希少さ」を生み出し、そこに金額を付けるしかない。FREEの収益化方法は、この考えが基本なんだろうと思う。

しかし、マネジメントという視点から言えば、「希少さ」をトップダウンでマネジメントする必要はない。費用を気にしなくていいくらい「潤沢」なんだから、細かくマネジメント(マイクロマネジメント?)せずに、何度もトライできる環境を用意して自由にやらせた方が良いと。ふむふむ、なるほど。。。

2つ目は「ビット(電子)」と「アトム(原子)」。
「ネット=ビット」と「リアル=アトム」と言い換えてもいい。あくまでFREE化されるのは「ビット」のみ。「アトム」は「リアム」と結びついてるのでどうしても原価がかかり、「限界費用」をゼロにはできない。

最後に「時間」と「お金」。
我々は年をとるにつれ「時間」より「お金」をたくさん持っていることに気づく、という指摘は、改めて言われてみて驚いた。たしかにそう。現在私が関わってるサービスも「時間」に対してお金をもらっている。たしかに「娯楽」や「情報」が「潤沢」になった結果、我々は忙しくなり、「時間」の方が希少になっている。オンラインゲームの場合、ドラクエを例とすれば「ルーラ」を使うためにユーザは喜んでお金を支払う。それだけでかなり「時間」を節約できるから。

いかに「時間を節約する」ことを「収益化」できるか。。これはもっと煮詰めて考えると、新しいビジネスモデルが生みだせるな。。。

いやー、この本ほんとに刺激的で面白かった!!!
今の時代を正確に切り取った視点。さすがだなー、編集長(笑)
久々の大ヒットです。

ネット業界(メディア業界も)で仕事してる人であれば、必読の書です。

以下は目次。

プロローグ

第1章 フリーの誕生

無料とは何か?
第2章 「フリー」入門
──非常に誤解されている言葉の早わかり講座
第3章 フリーの歴史
──ゼロ、ランチ、資本主義の敵
第4章 フリーの心理学
──気分はいいけど、よすぎないか?

デジタル世界のフリー
第5章 安すぎて気にならない
──ウェブの教訓=毎年価格が半分になるものは、かならず無料になる
第6章 「情報はフリーになりたがる」
──デジタル時代を定義づけた言葉の歴史
第7章 フリーと競争する
──その方法を学ぶのにマイクロソフトは数十年かかったのに、ヤフーは数ヶ月ですんだ
第8章 非貨幣経済化
──グーグルと二一世紀型経済モデルの誕生
第9章 新しいメディアのビジネスモデル
──無料メディア自体は新しくない。そのモデルがオンライン上のあらゆるものへと拡大していることが新しいのだ
第10章 無料経済はどのくらいの規模なのか?
──小さなものではない

無料経済とフリーの世界
第11章 ゼロの経済学
──一世紀前のジョークがデジタル経済の法則になったわけ
第12章 非貨幣経済
──金銭が支配しない場所では、何が支配するのか
第13章 (ときには)ムダもいい
──潤沢さの持つ可能性をとことんまで追究するためには、コントロールしないことだ
第14章 フリー・ワールド
──中国とブラジルは、フリーの最先端を進んでいる。そこから何が学べるだろうか?
第15章 潤沢さを想像する
──SFや宗教から、〈ポスト稀少〉社会を考える
第16章 お金を払わなければ価値のあるものは手に入れられない
──その他、フリーについての疑問あれこれ
結び──経済危機とフリー

巻末付録1 無料のルール──潤沢さに根ざした思考法の10原則
巻末付録2 フリーミアムの戦術
巻末付録3 フリーを利用した50のビジネスモデル
日本語版解説(小林弘人)

今のところ「FREE(フリー)」にコメントは無し

コメントを残す