「告発のとき」

監督・脚本はポール・ハギス。

この人、「ミリオンダラー・ベイビー」や「クラッシュ」の脚本を書いてる人みたい。初めて知った人だけど、この映画はかなり心に響いた。何か重たいものがズシッと体にのしかかってくる、印象深い映画。なので、この人が脚本とかに関わった他の映画も、今度機会あるときに観てみようと思う。

この映画で扱っている題材は戦争。「イラク戦争」。
舞台は2004年。2001年の9.11以降、大量破壊兵器所有を口実に、アメリカが「復讐」「腹いせ」「石油利権」様々な要因でイラクにしかけた大義なき戦争。ちなみに、2004年はアメリカの大統領選挙があった年。ブッシュが再選した年だ。誰もが何で再選出来たんだ?と思ったはず。「イラク戦争」も既に泥沼化しており、今と同様、解決策など全く見えない状況の中、アメリカはイラクへ派兵していた。

アメリカ兵の問題は、イラク戦争で兵士の入隊レベルを下げたことで統制が効かなくなったという軍の問題や、貧困層の家庭の青年達が職に就くため軍に入隊せざるを得ないという経済/格差問題など、アメリカ国内での様々な問題が多重的に重なっている。この映画では、そんな問題の中でも、イラク派兵された兵士の「心の闇」を扱っている。

主人公は兵士の父親。トミー・リー・ジョーンズが演じている。日本ではすっかりBOSSのCMのおじさんとして定着してしまっているが(笑)、こういう疲れた親父の役を演じさせると、顔の皺も手伝ってか、ほんとにこの人はハマる。悲壮感たっぷりというか。。見事に役を演じられていた。

事件の真相を調べる刑事役は、シャーリーズ・セロン。名前は知っていたが、この人の映画観るの初めてかな?いい女優さん。気に入りました。凛としてるというか。。役柄も、自分の職務(役割)を真面目に真摯に(多少融通が利かないけど)果たそうとしている刑事。好きですね、こういう人柄。何にせよ、自分の役割を真面目に果たそうとしてる人は好感持てます。

さて、父親も元軍人だけど、後半色々と真相が判明していく過程で、自分がそれまで信じていた価値観がボロボロと崩れて行く。命を共にした兵士同士は殺し合いなどしないとか、息子への信頼とか。。そして、最後の「危険信号」としての旗というメッセージへ繋がる。

原題は「in the Valley of Elah」。
旧約聖書でダビデがゴリアテを倒した場所(谷)の名前。映画の中でも出てくるのだが、日本語訳よりもこの原題の方が扱っているテーマをよく表している。

小さなダビデが巨大なゴリアテを倒した「勇気」や「知恵」がクローズアップされる逸話だが、何故戦う必要があったのか?ダビデは怖くなかったのか?何故イスラエル軍は、自分達がゴリアテと戦わずに少年であるダビデを戦わせたのか?

実はそういう疑問が注目されることはあまり無い。

戦うことが前提の「勇気」が讃えられる時代はたしかにあったし、作中の父親世代の軍人は割と無自覚に軍(アメリカ)を信じて戦えたのかもしれない。しかし、それは今の兵士には無理だ。イラク戦争に「大義」は全く無かったのだから。。ダビデの「勇気」を話しても、兵士には何の教訓も得られない。そんな戦争に巻き込まれた兵士達がどんな精神状態になるのか。。

ほんとに良いテーマを扱った映画だと思う。

こういう映画が生まれるところはさすがハリウッド。アメリカ映画というかアメリカという国の底の分厚さを感じさせる。アメリカは間違いをたくさん犯すし、大国だけに犯した間違いは規模が大きくなってしまい、より多数の人が迷惑を被るわけだが、しっかり反省はする。まぁ、反省したところで、10年くらい経つとすっかり忘れて、また同じことを繰り返すのも、この国の特徴ではあるが。。

一方の日本はイラク戦争に関して総括も反省も全く無い。そして、今後も同じ過ちを繰り返すだろう。いずれにせよ時間が経てば同じことは起こってしまうとは思うが、反省するのとしないのとでは、次世代へ引き継ぐ「知恵」の量が変わってくるように思う。

やはり戦争は嫌なものだ。だからと言って、「戦争は絶対反対」とは私は言わない。「人間」という生き物を深く理解すると、言っても仕方が無いからだ。だが、より経験値を貯めて、せめてより良い解決策を次世代が生み出すことを期待したいものである。

今のところ「「告発のとき」」にコメントは無し

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