予想どおりに不合理

ダン・アリエリー氏の著書。

氏は行動経済学を専門としている。
「行動経済学」って正直あまり聞き慣れない学問だが、Wikipediaで調べてみると以下の通り。

行動経済学
行動経済学(こうどうけいざいがく)とは、経済人を前提とした経済学ではなく、実際の人間を前提とし、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学である。

要するに、既存の経済学は「人間は合理的である」という前提からスタートしている。全ての理論はここから組み立てられる。その合理性に則り(のっとり)、各プレイヤー(経済人)は各々の利益が最大化されるよう行動すると。。経済学をまともに学んだ事は無いが、この本にも今まで読んだ本にもそんなニュアンスが書いてあった。

まぁ、実感として、普通の人なら同じ考えだと思うが、「そんなわけない」。
人間がそんな合理的な生き物のはずがない。
経済学も色々と変化してるみたいだが、「行動経済学」は、そんなアンチ経済学から生まれた一派なんだろうなと勝手に想像してみた。

この本も経済の本というより、マーケティングの本みたい。
心理学の本でもあるかな??

本書では、「人間がいかに不合理か」、様々な実験結果から、各章毎に大変興味深い結論が導きだされている。これが1つ1つほんとに面白い。

1章の相対性では、我々が如何に相対的に自他を比較しているか、3択で真ん中を選んでしまうかを実験結果で示している。また、他人との給料の比較に終わりは無く、心の平穏を保つには、その相対性の連鎖を断ち切る以外無いことも述べている。要するに知らなきゃいいってこと。これはほんと納得。

4章の社会規範/市場規範も面白い。
オフ(社会規範)とオン(市場規範)の違いというか。。金銭的な公正さが、必ずしも生活全てに通用するとは限らない。親切や優しさに払える対価(金額)など無い。むしろ金銭で返すのは失礼とすら言える。

その中間が「プレゼント」という実験結果も興味深い。
なるほど、たしかに「プレゼント」はそのモノの金額に関係無く貰うと嬉しい。だからこそ、渡す場合は「金額」は言うべきではないし、貰う場合は聞くべきではない。

我々はそんな2つの世界でバランスを取りながら生活しているんだな。。

9章「予測」、10章「価格」はそのままマーケティングに活用できる。

CMなどを見て「予測した喜び(自分がその商品を使って喜んでいる姿)」をイメージし、実際の商品を購入して「実際の喜び」を得る。これはまさにCMが狙う効果そのものだ。「予測」は先入観/ステレオタイプも作り出す。しかも、その先入観は見る側だけではなく、見られる側にも影響を与える。これも相対性と言える。

また、例えば薬などで、「価格」が高い方が低い商品より効き目があるように感じるのは誰でも経験あると思う。リポDやユンケルなどの栄養ドリンクも同じ。それだけでなく、本来全く効き目が無いはずのものが、「効き目があると信じる」ことによって、ほんとに効き目が現れることがある。これは「プラセボ=プラシーボ(偽薬)効果」と呼ばれる。要するに「暗示」だ。

品物を購入するとき、単純に安ければ良い、というわけじゃないのが人間心理の面白いところ。何かサービスを販売するときの「価格」設定にも応用できる。

11章と12章の我々の「品性」についての考察も面白い。
人間はズルが出来る環境だと「ほんの少しだけ」ズルをしてしまう。また、直接「お金」が絡むケースよりも、「お金が見えない」ケースの方が不正の損害額が大きくなる。「ほんの少しだけ」ズルするという結果も面白いが、「お金」が見えない方が損害額が大きいというのはほんと興味深い。たしかに、年間で見ても所謂「強盗」の被害額より、ビジネス上の不正(粉飾決算/脱税/横領など)による被害額の方がはるかに大きい。

個人的に本のキーになると思った言葉が「プライミング(刷り込み)」だ。

先入観なども刷り込みの結果だと思うが、個々人の哲学にしろ、入信している宗教にしろ、結局は刷り込みになる。この刷り込まれた価値観が、経済的な行動にも(当然)影響を及ぼす。また、時間をかけて刷り込んだ事だけではなく、判断する直前に刷り込まれた事でさえ、我々の判断に影響を与えてしまう。人間って単純だ(笑)。

ほんとに面白い実験結果ばかりで、読んでいて楽しかった。
そして、本のタイトルを改めて実感する。

人間は「予想どおりに不合理」。

最後に、この手の本を読むと最近よく感じるのだが、自分は特定の宗教を信じているわけではないので、元々「人間は素晴らしい」というような性善説は信じていない。基本的に「人間は愚か」というところから考えを出発させる。もちろん自分も含めて。。とは言っても、絶望したりネガティブな意味ではない。「当たり前の前提」としてだ。

この手のマーケティングに絡む本は海外の人が書いてる事が多く、そもそも現在の経済学はじめ、西洋から生まれたものなので、底に宗教的なベースを感じることが多い。そして、そのベースが大抵現実の人間に即しておらず、宗教的な「理想の人間像」をベースにしているように思う。

アジア人であり日本人であり、アニミズム(精霊信仰)が身体的に一番しっくりくる自分としては、そんな人間に関する考察の変節を、「何を今さら?」「そんな事今まで気づかなかったの?」と言いたくなったりはする。

やっぱり今世紀は東洋の時代かな。。
そんな事も読んでる途中に思った。

以下は目次。

はじめに
一度のけががいかにわたしを不合理へと導き、ここで紹介する研究へといざなったか
1章 相対性の真相
なぜあらゆるものは——そうであってはならないものまで——相対的なのか
2章 需要と供給の誤謬
なぜ真珠の値段は——そしてあらゆるものの値段は——定まっていないのか
3章 ゼロコストのコスト
なぜ何も払わないのに払いすぎになるのか
4章 社会規範のコスト
なぜ楽しみでやっていたことが、報酬をもらったとたん楽しくなくなるのか
5章 性的興奮の影響
なぜ情熱は私たちが思っている以上に熱いのか
6章 先延ばしの問題と自制心
なぜ自分のしたいことを自分にさせることができないのか
7章 高価な所有意識
なぜ自分の持っているものを過大評価するのか
8章 扉をあけておく
なぜ選択の自由のせいで本来の目的からそれてしまうのか
9章 予測の効果
なぜ心は予測したとおりのものを手に入れるのか
10章 価格の力
なぜ一セントのアスピリンにできないことが五〇セントのアスピリンならできるのか
11章 私たちの品性について その1
なぜわたしたちは不正直なのか、そして、それについてなにができるか
12章 私たちの品性について その2
なぜ現金を扱うときのほうが正直になるのか
13章 ビールと無料のランチ
行動経済学とは何か、そして、無料のランチはどこにあるのか
謝辞
共同研究者
訳者あとがき
参考文献
原注

今のところ「予想どおりに不合理」にコメントは無し

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